イケメン伯爵の契約結婚事情
「参ったな。予想以上に君はたくましい。知ったら危険だと分かって言っているのか?」
「あなたの花嫁としてここにいる以上、危険なのは変わらないんでしょう? だったら何もかも分かっている方がいいわ。アルベルト様は今のところ私のことを内向的なお嬢様だと思って侮っている。それを利用して上手く会話で誘導すれば、あなたの欲しい情報を得ることもできるかもしれないでしょう。私にできることがあるならやらせてほしい。守られているだけなんて性に合わないもの」
「……ベルンシュタイン伯爵はどういう教育をしたんだ?」
問いかけたのは、トマスにだ。
肩を竦めた従者をみやり、フリードは呆れたようにため息をつくと、エミーリアのおでこを指先ではじいた。
「痛っ」
「人の言うことを聞かないからだ。……秘密の話は夜だ。昼間は誰に聞かれてるか分かったものじゃないからな」
「え」
おでこを抑えながら、エミーリアは斜め上のフリードの顔を見つめた。
笑っているのに、どこか悲しそうな表情で、エミーリアを見ている。
(こんな顔、前にも見たわ)
エミーリアは記憶を辿る。
いつだったか。最初に出会った時だったような気がする。
「フリード」
エミーリアはフリードの手を握った。
「私はあなたの花嫁になるという契約をした。それは、あなたの力になるっていうことと同じだと思ってるわ。だから」
――信用して
思いを込めて彼を見つめた。