イケメン伯爵の契約結婚事情
声が届いたかどうかは分からないが、フリードは目を細め、エミーリアの頬をくいと持ち上げた。
そして次の瞬間に、彼女の目元のほくろをぺろりと舐める。
驚きのあまり硬直したエミーリアは、彼の唇がゆっくり離れていくのを息を止めたまま見つめた。
「ちょ、ふっ、フリード?」
「……君は少し自分の美しさを自覚した方がいい」
「は?」
「そんな顔で詰め寄られたら、どんな男でも手を出す」
「はぁ?」
そしてもう一度、今度は頬を指ではじかれた。
「俺の妻なんだから。叔父上の前でそんな顔、絶対するなよ」
そのまま、くるりと踵を返し出て行ってしまう。呆然としたまま見つめていると、ディルクが苦笑しながら後に続いた。
「……どんな顔よっ」
「顔真っ赤ですよ」
「当たり前でしょ。あの人今ぺろってっ」
「そうさせるだけの隙がお嬢様にあるってことですよ」
「冷たいわね」
呆れたように言うトマスに顔を見られないように隠しながら、頬をごしごしとこすった。
いつまでも熱を持っているような感覚が消えなくて、エミーリアはこの熱をどう覚ましたらいいのか分からなかった。