イケメン伯爵の契約結婚事情


 その夜。エミーリアはいつものようにメラニーに服を整えてもらい、寝室でフリードを待った。


「奥様、そんなにそわそわしては待ちくたびれますよ」


ニヤニヤするメラニーは完全に夫のお渡りを待つ妻への冷やかしが込められている。
思わず真っ赤になったエミーリアは窓の外を見た。


「そういうんじゃないわ。ただ、話をするのが楽しみなだけで」

「仲がよろしくて何よりです。私もほっとしました」

「仲がいいわけじゃ……」


無いわよ、と言おうとして言葉が止まったのは、窓の下に動く明かりを見つけたからだ。
ちろちろと淡くきらめくのはろうそくの光だろうか。


「メラニー、あれ」

「え?」


じっと見ていると目が慣れてくる。スカートの影が見えるところを見れば侍女だろうか。調理場のある方向へと小走りで進んでいく。


「夜食の準備ですかね。たまにアルベルト様がご所望されると聞いたことがあります」

「そうなの」

「ええ。夜は通いのシェフたちも帰ってますから、簡単なものしか出ないという話ですけど」

「そう」

「あ、そろそろフリード様が来られますね。私は部屋に下がらせていただきます。どうぞごゆっくり」


続き間に下がるメラニーを見送り、エミーリアが本に手を伸ばして読み始めると数分でフリードが入ってきた。

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