イケメン伯爵の契約結婚事情
「勉強熱心だな」
「他にすることがありませんもの」
「そんな君に朗報だ。明日から三日間、領地めぐりに行こう」
「本当?」
思わず身を乗り出してしまって、慌てて咳ばらいをする。フリードは楽しそうにエミーリアを眺めつつ、彼女の手から本を奪い取った。
「フリード?」
「読書の時間は終わりだ。明かりを消すぞ?」
枕元のランプ以外の明かりを消して回り、扉にも鍵をかけたフリードは、ゆっくりとベッドに腰掛ける。
「内緒話はこっそりとやらないとな」
「まあ、ね」
枕元のランプが作り出す空間はまるで秘密基地のようだ。元よりふたりきりなのに、先ほどまでとは濃密具合が違う気がする。
「今日はディルクを見張りに立ててる。お前の侍女はトマスに呼び出させたからすぐは戻らないと思うが、あまり大きな声は立てるなよ。ちょっと長くなるが、お前にはすべて話そう」
「いいわ。夜は長いし」
フリードの形がよい唇から紡がれる言葉に、エミーリアは静かに耳を傾けた。