イケメン伯爵の契約結婚事情

メラニーはエミーリア付きの侍女である。
大人しく目立たない少女ではあるが、実直なところがエミーリアは気に入っている。裁縫の腕がいいところも、傍に置いておきたいポイントの一つだ。


「可哀想に、メラニー」


同類を憐れみつつトマスが漏らすと、エミーリアにじろりと睨まれる。


「だってやってられないわよ。子供の頃は好きなようにさせてくれたのに、十五歳の誕生日を過ぎた途端、屋敷にいろ、花嫁修業をしろっておかしくない?」

「それが大人になるということです」

「だったら大人になんてならなくてもいいわ。お父様もお兄様も狩りに連れて行ってくれなくなって……弓矢を触るのだって半年ぶりよ」


エミーリアは鼻を鳴らす。多少日に当たったところでくすみもしない美しい肌は、うっすら汗をかいているのか日光を反射していた。

まぶしさに目を細めながら、トマスは咳払いをする。


「普通のご令嬢は一度だって弓矢など触りはしません。もう十七歳になられたんですから自覚を持ってください。せっかくあんなに縁談の話が来ていたのにお断りする羽目になって……。このままじゃ婚期を逃しますよ!」

「そりゃ私だって別に結婚したくないわけじゃないけど。でもあそこまで噂が先行しちゃったら、もう無理でしょう? 実際の私は針仕事なんて五分と続けられないのよ? ……いいの。もう諦めたわ。どうせ家はお兄様夫婦が継ぐんだし、うちはお金持ちじゃないの。私ひとりくらい養えるでしょ」

「情けないこと言わないでください」


トマスの目から見ても、エミーリアは魅力的だ。
女性として幸せになってくれることをずっと願い続けてきたのに。

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