イケメン伯爵の契約結婚事情
***

 フリードが物心ついたころには、屋敷には常に父母の他に叔父がいた。
父と九歳違いの叔父はまだ青年とも言えないような年齢で、フリードにとっては頼りがいのある兄のような存在だった。

 当時のクレムラート家の当主は祖父で、屋敷内の権力は祖母の元に集まっていた。
厳しい祖母から逃れるように父親は書庫に入りびたり、母親は父が受けるべき叱責を祖母から愚痴のような形で受けていた。
 幼心に、フリードは母がかわいそうだと思っていたし、庇いもしない父のことを軽蔑もしていた。


「父上はズルいと思うんです」

「どういうことだい?」


フリードがふてくされていると、傍にきてくれたのはアルベルトだった。


「おばあ様は母上をいじめている。なのに父上は助けてもあげない」

「この家じゃ奥様に逆らえるものはいないからな」


アルベルトにとっても母親のはずなのに、そういえば「奥様」という呼び方をする。
それが疑問となって胸に残っていた。

それからすぐに、アルベルトは結婚と同時に北の土地を任されることになり、そちらの屋敷へと移った。

同じ頃、母と父の間の溝も決定的なものとなり、母は最低限の荷物を持って屋敷を出て行く。
フリードは広い屋敷の中、取り残されるような形で一人になった。
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