イケメン伯爵の契約結婚事情
朝食後、そのまま旅支度を整え玄関に向かった。同行するのはディルクとトマスだ。見送りに来た屋敷内の人間の中にアルベルトの姿はなかった。
「乗り心地はどうかな、奥さん」
「いいわ。すごく遠くまで見える」
エミーリアは輿入れの日同様、フリードの馬に乗せられていた。
「奥様、お気をつけて」
「メラニー、悪いわね。数日一人にさせるけれど」
「ご心配なさらなくても、私にもちゃんとお友達くらいできました。安心してご出発なさいませ」
メラニーの笑顔にホッとしたタイミングで、今度はトマスの乗るムートがいななきをあげた。
「落ち着け、ムート。大丈夫だよ」
トマスが落ち着かせるように首のあたりを撫でている。エミーリアがそちらを向いたのに気づいて、フリードが耳打ちする。
「山に行ったら乗せてやる。しばらく我慢しろ」
「分かってるわよ」
ムートのいななきを無視している形になるのが辛い。
大人しくうつむきながら自分の腕や足が疼くような感覚がずっとしていた。
「では行ってくる」
「行ってらっしゃいませぇ」
なぜか見送る侍女たちの声がやたらに黄色い。
ちらりとメラニーを見ると、顔を真っ赤にして手を振っていた。
先ほど耳打ちするために顔を近づけたせいで、エミーリアがフリードにしっかり支えられているように見えるのだろう。
「奥様、道中お気をつけて。フリード様とのご旅行、楽しんでくださいませ」
「ありがとう、メラニー」
メラニーは年頃の女の子らしく、恋愛話が大好きだ。
また勝手に妄想してそうねと思いつつ、エミーリアは曖昧に笑った。