イケメン伯爵の契約結婚事情


 道中は輿入れの日同様、領民たちへの顔見せを兼ねての移動だった。時々領内の有力貴族に挨拶をしつつ、今日は先を急ぐからと接待はやんわりと断りながら、ようやく領土境の山までやってくる。

少し奥に入ったところで、エミーリアはいてもたってもいられずフリードの愛馬から飛び降りた。


「馬鹿、危ない」

「大丈夫よ」

「お転婆も大概にしろ。怪我をしたらムートに乗れないだろう」


いさめられて、しかもそれが正しいものだからエミーリアは唇を尖らせた。


「大丈夫ですよ、フリード様。これくらいで怪我するようなエミーリア様ではありません」


トマスの口添えに、エミーリアはほっとしてムートへ駆け寄る。


「ムート」


結婚前にそうしていたように、首から背中にかけて毛を撫でてやると、興奮気味だったムートが気持ちよさそうに目を細める。

綱を抑えていたトマスは、フリードにお伺いを立てるように視線を送り、頷いたのを確認すると手綱をエミーリアに渡した。


「フリード。乗ってもいい?」

「止めても乗るくせに。許可がいるのか?」


ふてくされた様子のフリードに、エミーリアは軽やかに笑って見せる。

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