イケメン伯爵の契約結婚事情
フリードの馬は他の馬より一回り大きい。だからすぐ追いつくだろうと思っていたのに、五分ほど走っても姿が見えない。更にしばらく行くと更に山を登るルートと、下るルートに別れる地点があり、そこでディルクが馬から降りた状態で途方に暮れていた。
「フリード様。申し訳ありません。エミーリア様を見失ってしまいました」
「なんだと?」
「しばらく好天が続いたせいか蹄の跡も残っておらず、どっちに向かわれたか判別がつかないのです」
ディルクは地面を見分していたようだ。フリードは辺りを見回す。どちらに行ったか確かに想像もつかないが、あの娘ならば下がるよりは上がるだろうなという確信もあった。
「おそらく上だろうな。俺が上を見てくる。お前はこっちの道を探してくれ。数キロ進んでいなければ戻ってくるんだ」
「かしこまりました」
ディルクが走り出したのを見送ってから、フリードも森の先を見る。
道はあるものの木々が茂り見通しは良くない。加えて彼女はスカートだ。いくら乗馬に自信があっても、うっかりがないとは言い切れない。
「……ったく、目の離せないお嬢さんだな」
舌打ちしつつ、口の端が緩んでいくのは止められず、フリードは咳ばらいをして自分をごまかした。
(でもこんな娘は初めてだ)
純情で、お転婆で、一生懸命で、無邪気で。
今まで周りにいたどんな女性より、危なっかしくて目が離せない。
なのにそれが嬉しいだなんて。
自分の心の中でどんどん大きくなっていく彼女の存在。
失くしたくないと強く思う。
「エミーリア、無事でいろよ」
フリードは口元を引き締めて、馬を速めた。
*