イケメン伯爵の契約結婚事情
風が頬を切る。
どんどん狭くなる道をものともせず、ムートは徐々に速度を上げていた。
「ムート。ちょっと速いわ。落ち着いて」
疾走する愛馬の首をゆっくり撫でる。
最初はエミーリアのいうことを聞いていたムートだが、徐々に興奮したのか勝手にスピードを上げ始めている。
結婚前まで山での乗馬ばかりしていたために、木々の合間を抜けていくのはムートの得意とするところではあるが、今日のエミーリアは腰から下にふくらみのあるスカートをはいている。これが枝葉に引っかかり、時々引っ張られそうになるのだ。
「ねぇ、危ないわ。ムート」
興奮しすぎて言葉が耳に入らなくなっているよう。
そう思ったとき、後ろから別の蹄の音が聞こえる。
「エミーリア! 止まれ」
大きな黒馬に乗ったフリードだ。その体格の大きさから、あっという間にすぐ後ろにまで追いついてくる。
「ムートが興奮してるの。今なだめているから馬を寄せないで」
「待ってるうちに頂上についちまうよ」
そういうと、フリードは威圧するようにムートの横に馬を並ばせた。大きな馬の登場に接触の危険を感じ取ったのか、ムートが急速にスピードを落とす。
「よしよし、ムート、大丈夫よ」
エミーリアの声に、ムートも歩くほどのスピードになりながら呼吸を整えた。