イケメン伯爵の契約結婚事情
先に馬の手綱を近くの木にひっかけたフリードは、馬上のエミーリアに手を伸ばした。
「何?」
「ムートを少し休ませてやれ。それより、ここまで来たなら見せたいものがある」
服装の都合上、乗るのも大変なら降りるのも大変だ。戸惑っていると、ほら、と手を広げられる。
「飛び降りるくらいなんてことないんだろ。受け止めてやるから降りろよ」
「でも」
「夫の手が信じられない?」
「そんなことないわ」
だけど、心臓が痛いくらいドキドキして、うまく息ができなかった。
口を開けたら、心臓ごと飛び出してしまいそうで、目を伏せたまま片足をムートの背中まで滑らせた。
途端、ふわりと持ち上げられる。
腰のあたりを掴まれて、次の瞬間には、エミーリアはフリードの腕の中にいた。
「こう軽ければムートもどこにでも行けてしまうな」
「普段はちゃんということ聞くのよ。今日は久しぶりだから興奮してただけ」
「服装を考えてなかったのは敗因だったな。今度乗馬服を作らせよう。奥さんが落馬でもしたら大変だ」
意外な返答に、エミーリアはフリードを見上げる。
「でも、そんなことしたら、みんなに私が馬に乗ることがバレるわ」
「馬に乗れる令嬢がいても問題ないだろう。俺が教えたことにすればいい。のちに君の才能を開花させたと褒めそやされるかもしれない。それより来い。先に開けたところがある」