イケメン伯爵の契約結婚事情
ムートの綱を枝にひっかけてから、エミーリアはフリードについていった。
木々を抜けたところに、広く開けたところがある。目の前は空、眼下に広がるのはクレムラートの領地。花が特産というだけあって、花畑がところどころにある。まるでパッチワークのようだ。
「綺麗」
「歴代領主が狩りを好んだのは、この景色を見るためだったのかもしれないよな。自分の領地の素晴らしさを感じるだろう。どうだ?」
「素敵だわ。ずっと見ていたい」
心なしか、匂いまで伝わってくるような気がする。
「……父は政治には構わず、狩りにばかり出ていた」
すぐ上のフリードの顔を見上げると、彼は眼下に広がる景色を、どこか寂しそうに見つめている。
「俺は何度も罵った。でも自分がここにくるようになって、叔父に不信感を感じるようになってようやく、父は誰よりもこの領土を愛していたのではないかと思うようになった」
色とりどりの花咲く春、夏はまぶしいほどの空と緑のコントラスト、実りの秋には稲穂が揺れる。
この土地を見て、誇らしさに胸が震えるたび、領主として愛さなかったわけはないと思う。
「……それに気づいたのは父上を失ってからだ。俺は……もっと父に違う言葉をかけるべきだったんじゃないかと思う」
「フリード」
「もちろん領主として無能だったことは変わらないがな」
憎まれ口に変わった途端にフリードは表情を緩めた。
それがもう強がった顔にしか思えず、エミーリアは抱きしめたいような衝動に駆られる。
「……では、あなたがお父様の遺志を継げばいいわ」
「え?」