イケメン伯爵の契約結婚事情
「この土地を愛して、発展させていく。お父様が本当にしたかったのはきっとそういうことよ。無能なわけではないのだと思う。ただ、アルベルト様の才能を信じていたんだわ。自分がいては旨く動けないと、そう思ってお任せしたのかも知れないでしょう?」
エミーリアには、これほど頭の回るフリードの父親が単なる無能だとは思えなかった。無能を装うのは、すべてを円満に抑えるための処世術だったのかもしれないとさえ思うのだ。
「……父上が生きているうちに、君に会えれば良かったのに」
「え?」
問い返した声は聞こえないのか、肩をぐっと抱かれる。
「そろそろ行こう。風も冷えてきた。……トマスも待ちくたびれているだろう」
「あ、そうね。トマスがのる馬がないものね」
「忘れてたのか。酷い主人だな」
「もうっ、そういうこと言わないでよ」
膨れたエミーリアは先に行こうと足を速めたが、肩を掴んでいたフリードの手がそうさせてはくれなかった。
次の瞬間、後ろから強く抱きしめられる。
エミーリアの心臓は飛び出しそうだ。
「ふっ、フリード?」
「……ちょっと寒いな」
「やだ。風邪ひいたの? 大丈夫?」
「平気だ。ちょっとだけこのままでいてくれれば」
首筋に顔を押し当てられて、身動きが取れない。
結局、ディルクが探しに来るまで、エミーリアは硬直したままフリードに抱きしめられていた。