イケメン伯爵の契約結婚事情


 その日は、西方地区の宿に泊まる。
領主が遠出するときは、領内の他の貴族の館に宿をとるのが普通だ。しかしフリードは「それだと接待で面倒くさい」という理由で断ったらしい。

領主一行が滞在するということで宿は貸し切りの状態になっていた。
宿屋の主人は「こんな汚いところに」と恐縮しかりである。


「なんか申し訳ないわね。他の方と一緒でも私はよかったのに」

「人が増えれば危険が増すからな。今は危険な時期だから安全策をとった」

「でもアルベルト様が本当に私を狙うかしら」

「子ができれば間違いなく」

「だとすれば逆に今は安全じゃないの。子は出来ないわ。絶対にね」


何せ、唇へのキスさえもしてはいないのだ。
なぜか拗ねたような気持ちでエミーリアは思う。


「それはそうだが。叔父上も今は焦っている。俺が二十歳になる前に色々片づけたいと思っているだろうし」

「それにしたって私を狙うってのは遠回りだわ。だって今時点であなたがいなくなれば、継承者はアルペルト様しかいなくなるんだし……」


そこまで言って、はっと気づく。
フリードがそこまでアルベルトを疑うということは、身に覚えがあるからに決まっている。


「あなた、もしかして何か危険な目に遭っていたりするの?」


胸元につかみかかると、フリードは驚いたように目を見開き、その後笑い出した。
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