イケメン伯爵の契約結婚事情
「笑わないでよ。そうよ。私を狙うよりあなたを狙った方が早いんだもの。何もないわけないんでしょう?」
「俺は対策を練ってる。料理はカールにしか作らせていないし、先に毒見もさせている。外に出ればまあいろいろあるが、ディルクがいれば大概は切り抜けられるってものだ」
エミーリアはディルクを振り仰ぐ。ディルクは困ったように主人とエミーリア交互に視線を送ると、
「辻馬車に突っ込まれたことが二回ありますが、大丈夫ですよ。この方もエミーリア様と同じで大人しいご子息ではなかったので、勘も利けば身のこなしも軽いんです。やんちゃな人間というのは危険に敏感なものです。あなたもそうだったでしょう?」
「ぶっ」
思わず噴き出したのはトマスだ。
フリードとエミーリアは揃ってそっちをにらんでしまった。
「失礼しました。いや、ディルク様のおっしゃるとおりだなぁと思って。どこかのご令嬢もそれは身軽なものでしたし」
「ちょっとトマス」
「いいではないですか。似た者同士でお似合いですよ」
ディルクがあっさりと言い、フリードは照れくさそうに口に食べ物を詰め込むと、「契約に似合いもなにもあるか」と呟いた。
それは小さな声だったが、そばにいたエミーリアにはしっかり聞こえて、浮足立った気持ちが沈んでいくのを感じた。
(契約だもの。……そうよね)
なのに落ち込む自分がおかしいのだと、エミーリアは唇をかみしめた。