イケメン伯爵の契約結婚事情



「こちらがお部屋になります。狭いかもしれませんが宿一番の部屋です。ご勘弁ください」

「そんなに恐縮するな。急に言って部屋を用意してもらっただけで感謝している」

「いえいえ。領主様がお泊りになるなど初めてなもので、至らぬところがあったらいくらでもおっしゃってください」


宿屋の店主は、入店してからこっち、頭を下げまくっている。後から顔を思い出そうとしても思い出せないだろう。
エミーリアは通された部屋に入り、ふうと息をついた。

大きな窓がとられていて、ベッドは二つ。こじんまりとしていて、正直屋敷の寝室よりも狭いが、こぎれいにされていて、棚に飾られた手作りらしい小物が可愛らしい。


「私とトマスは隣の部屋におりますので、いつなりとお呼びください」


ふたりの従者は頭を下げ、早々に部屋を引き上げる。
そこではたと、この部屋を使うのが自分たちふたりなんだとエミーリアは気づいた。
途端に緊張してきて、ベッドカバーの裾を握りしめる。幾何学模様が刺繍された独特な模様のベッドカバーだ。これは宿の女将が作ったのだろうかとふと考える。


「明日は、叔父の領地を回る。事前には伝えていないから、遠くから見て君が花を見たがったことにしたいんだがいいか?」

「ええ。アルベルト様の領地で、花畑を確認するのね?」

「そうだ。異様な高値で取引されるものが何なのか。今度こそ突き止めてやる」


こぶしを握り締め、決意を新たにしているフリードは、明日のことですっかり頭がいっぱいのようだ。

(同じ部屋でドキドキしてるのなんて私だけね)

寂しいような残念なような気持ちでいると、部屋の扉がノックされる。
軽装になったトマスがそこにいた。
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