イケメン伯爵の契約結婚事情
「待てと言ってるんだ。俺は先に食堂に行っているから着替えたら来い」
不機嫌そうなフリードがさっさと部屋を出て行ってしまう。廊下にディルクたちがいたのか、話し声が聞こえてきた。
「フリード様、寝不足ですか?」
冷やかすようなディルクに「うるさい、バカ」と反論している。
(冷やかされたって動じないわよね)
「……寝不足なのはこっちよ」
エミーリアは夜着を脱ぎ捨てながらつぶやく。
勝手にドキドキして、何もないから拗ねて。そういう契約なんだから当たり前なのに。
好きになったってどうにもならないのに。
「だから私が馬鹿なんだわ……」
契約の一年を終えた時、ずっと一緒にいたいと言えば彼は応じるだろうか。
エミーリアは首を振る。
今のところお互いの関係はうまく行っているが、それは契約を前提として踏み込まないようにしているからだ。
だから目の前で服を脱ごうとすればあんなに不機嫌になる。好きだなんて気持ちは、重荷にしかならない。
「きっと、これ以上踏み込んではいけないんだわ」
自分に言い聞かせるように呟く。
それでも、彼にのめりこんでいく自分を止められる自信はなかったけれど。