イケメン伯爵の契約結婚事情
2.持ち掛けられた契約
矢にかかった獲物を追って来たら、ふたりの男に出くわした。
エミーリアは興奮する馬をなだめながら、その背から降り、目の前の二人組を観察した。
一人は、ダークブロンドの緩やかなウェーブのかかったショートヘア、鋭角的な顎をした目鼻立ちのくっきりした青年で、宝石のような碧眼が印象的だ。白シャツに赤地のベスト、深緑のズボンにブーツを合わせた格好で、腰には細身の剣を差し、手には弓を抱えている。
もう一人は全体的にもっと落ち着いている。ブラウンの髪、それより暗いブラウンの瞳。縄を片手にイノシシの捕獲体制に入っている。
仕留めたと思ったイノシシには、矢が二本刺さっていた。今わの際に相当暴れたのか、近くの木々の枝がいくつも折られている。
「ああ、もう一本の弓は君か。どこのお嬢さんだ? 勇ましいもんだな」
碧眼の青年が、エミーリアに値踏みするような視線を向けた。
その後ろにはエミーリアの馬よりも一回りは大きな黒毛の馬がいる。
エミーリアは男よりもそちらに気がひかれた。
幼少時から馬が好きなエミーリアにはそれがよく手入れされたいい馬であることが分かる。きっと脚力もあるだろう。こんな馬に乗って全力疾走したらどれほど気持ちいいものか。