イケメン伯爵の契約結婚事情
「……いいだろう。誰か、メラニーをエミーリアの続き間に運んでくれ。医師も治療はそこで行っていい」
「はっ」
医師がかしこまって礼をするうちに、トマスがやってきてメラニーを抱き上げる。
「エミーリア様、お連れしてよろしいですか」
「お願い。トマス」
軽々とメラニーを抱き上げ連れていくトマスの後ろ姿をエミーリアはじっと見つめた。
その背中に、アルベルトの冷たい声がする。
「我が領地にいらしたそうですね。最初から訪問予定にしていただければ、私がご案内しましたのに」
アルベルトの視線上からエミーリアを隠すようにフリードが立ちふさがる。
「たまたまなんです、叔父上。近くも通ったし、エミーリアを叔母上に会わせたくて。ずいぶんお元気そうだったじゃありませんか。叔母上もひとりでは寂しいでしょうに」
「夫婦間に口を挟むものではないよ。それより、視察で欲しいものは見つかったのかな?」
アルベルトがにやりと笑う。
フリードとエミーリアは同時に息を飲んだ。
「……いえ」
「そうだろうな。何を探っているのかは知らんが、我が領地のことに口を挟まないでもらいたい。私の支持者の中には、フリードでは年若すぎるという意見もある。あまりに強硬な手段をとるようなら領地が分断するやもしれませんぞ」
そのまま踵を返し、荒々しく扉が閉められる。
使用人は皆、シンと静まり返り、エミーリアも思わず黙り込んだ。