イケメン伯爵の契約結婚事情
「行こう」
肩を抱いたのはフリードで、有無を言わさぬ勢いで部屋を出ていく。
「フリード。ごめんなさい」
まっすぐ前を見る瞳、不機嫌にも見える横顔を眺めながらおずおずとエミーリアが言うと、フリードは手近な部屋に入り誰もいないのと確認すると突然笑い出した。
「見たか、エミーリア。叔父上のあの余裕のない顔。野心を悟られるような発言をするなど、うかつにも程がある」
「えっ?」
あれは余裕の無い顔だったのか。エミーリアには不敵な宣戦布告に聞こえたのだが。
「それにやっぱり行ってよかった。俺はヒントを見つけたかもしれない。しばらく証拠固めに動くから、お前は絶対部屋から出るな。トマスにも絶対離れないように言っておけ」
「それはなに? 教えて」
「今はダメだ。全てわかったら教えるから大人しくしていろ」
「フリードってば」
味方になると言ったのに、部外者のような扱いを受けるのは不服だった。
「夕飯の時に会おう」
「待って。私も」
追いかけようとしたエミーリアに、フリードは首を振る。