もう一度君に会えたなら
 わたしはケーキの盛られたお皿が並んでいる席に腰を下ろした。わたしの好きなミルフィーユだ。

「今日帰りがけに見かけてね。唯香がここのミルフィーユを好きだったのを思い出したの」

 お母さんはそういうと、いれたての紅茶をわたしの前に差し出した。

 これがわたしにとっての日常だ。だが、川本さんにとっての日常はどんなものなのだろう。どんな家に住んでいるのだろう。知りたい気持ちはつい心からあふれそうになり、自分を戒めた。

「わたしの学費って貯めてあるの?」
「当然よ」
「大学院の分も?」

「もちろん。お父さんもお母さんもそんなにお金を使うほうでもなかったし、独身時代の蓄えもあったもの。どうしたの? 急に」

 わたしは首を横に振った。

「わたしの知り合いで弁護士になりたい子がいるの。だからなんとなく気になってしまった」
「同じ高校の子?」
「和泉高校の人で三年生」
「そんな知り合いがいたの?」

 わたしはあいまいに微笑んだ。


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