もう一度君に会えたなら
「彼氏?」
「違うよ」

 わたしは強い口調で否定した。
 お母さんは苦笑いを浮かべていた。

「お金の事情は人の家によって違うし、その子の家も日頃の生活費からねん出する予定かもしれないわよ。あまり他の人の家の事情には必要以上に立ち入らないことね」
「分かっているよ」

 それが正解なのだろう。だが、彼は大学進学自体を諦めようとしている。勉強もあれだけできるのに。

「その人がお母さんの事務所で働きたいと言ったらどうする? 向こうがそう言ったわけじゃなくて、わたしがそう思ったの」

「大学生になったら具体的に考えればいいわよ。夢が変わる可能性だってあるのだから。わたしの事務所は実力主義だから、見込みがあれば相談に乗ってあげる」

 お母さんはそう返した。

 大学を卒業して、法科大学院に入る。お母さんもそれが当然だと思っているのだろう。なぜその当たり前のことが彼にとってはそうでなくなってしまったのだろう。

 わたしはため息を吐くと、ケーキにフォークを入れた。

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