奏 〜Fantasia for piano〜
雑誌は奏のお母さんによって、ゴミ箱に捨てられてしまった。
奏は小さく溜息をつき、静かな声で言う。
「母さん、アランは悪くないよ。
彼は才能があり、努力もしていた。成功を祝福しないと」
アラン?
ゴミ箱の雑誌の表紙の端に、『アラン』と読めるフランス語を見つけた。
ええと、この綴り、アラン・ベルトワーズと読むのかな……でも、これだと英語読みだから……。
ゴミ箱を覗き込んで考えていたら、どこかで聞いたことのある名前のような気がしてきた。
記憶を探ると、アラン・ベルトワーズという名前と共に一枚のCDが浮かんできた。
そうだ、この人は若手のプロピアニストだ。
私のピアノの先生がCDを貸してくれたから、一度だけ聴いたことがある。
うまいとは思っても、残念ながら私の心には響かない演奏だったけど……。
奏のお母さんが、大きな息を吐き出した。
「奏は優しい子ね……。割り切れないのは、お母さんだけなのかな。
アランくんに罪がないと分かっていても、アランくんの母親が、あなたをこんな目に……。
この憎しみは一生消せない」