奏 〜Fantasia for piano〜
そんな気持ちを伝えたら、管理人の眉間のシワを一層深いものにしてしまった。
「そのようなことになれば、あなたは扉から出られなくなりますよ」
「でも、この扉って、内側からはいつでも開けて出て行けると言ってましたよね?」
前回この世界に来たとき、扉から通路へ出てくる人影を目撃した。
そのときに管理人は、そんな説明をしてくれたはずなのに。
管理人は静かに首を横に振る。
「確かに内側から鍵はかかっておりませんが、自由に出て行けるのは住人だけです。
彼の心に取り込まれてしまった後では、あなたの意志で出ることは不可能なのです」
なにそれ、怖い……。
奏の記憶の一部となり、永遠にここから出られないのは困る。
受験もあるし、家族や友達が心配する。
それに、今の奏に会えなくなる……。
「分かりましたか?」と問われ、コクコクと首を縦に振った。
「おや、時間のようですね」
管理人がそう言って天井を仰ぐと、開けられた丸窓からは強烈な光りが射し込み、スポットライトのように私だけを照らす。
眩しさに目を瞑り、次に開けたときには自分の部屋のベッドの中で、カーテンの隙間から射し込む朝日に顔を照らされていた。