奏 〜Fantasia for piano〜

「あ……戻ってきた」


独り言を呟いて体を起こし、急いで机の上のスマホに手を伸ばす。

もう白い世界が夢だとは思っていない。

それでも裏付けというか、確かめたくて、ヤフーサイトにアクセスし、アルファベットで奏の氏名とピアノコンクールという単語を入力して検索した。


すると、あの事件に関する英文の記事にヒットする。

日付は四年前で、奏の年齢は十三歳。

辞書を引きつつ読んでみると、私が見た事件のあらましが、ほぼ正確にまとめられていた。

私が見なかった事実も書かれている。

事件のため、あのコンクールの本選は後日、やり直しとなったみたい。

加害者の息子、アラン・ベルトワーズも本選に残っていたけど、出場辞退を事務局に申し出たそうだ。


大きく息を吐き出し、スマホを置いてベッドに座り直した。

白い世界の扉の中で見てきたことは、実際に奏の身に起きたことだった。

そういえば、暑い夏なのにどうして長袖シャツを着ているのだろうと不思議に思ったことが何度かあった。

それは、傷を隠すためだったのか……。


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