奏 〜Fantasia for piano〜
「俺の方こそ、ごめん。自分が傷つきたくないから、綾を責めてしまった。心配してくれる君を……」
肩越しに振り向くと、奏はバツの悪そうな顔をしている。
「怒ってないの?」
「うん。心配してくれてありがとう。
この前は乱暴なことして、ごめん」
乱暴なことってなんだろうと考えた一秒後に、キスのことだとハッと気づいた。
途端に真っ赤になる私。
焦りながら、なにか答えなければと口を開く。
「あ、あれについては謝らなくていいよ。
ファーストキスの相手が奏で、嬉しかったというかーー」
「嬉しかったの?」
「ああっ、なに言ってんだろ私!
ええと、あの、その……」
穴があったら入りたい気持ちでいる。
奏は意地悪でキスしたのに、それを喜んだなんて、私は変態か。
しかもファーストキスだったという恋愛偏差値の低さまでバラしてしまった。
慌てふためく私に、奏はクスリと笑う。
「綾、カフェラテ飲んでいってよ。
今日はなんの絵にしようかな」
「いいの?」
「うん。綾の顔を見ればマスターが喜ぶから。
俺が虐めたから来なくなったんだろうって、毎日チクチク言われて……」