奏 〜Fantasia for piano〜
第三楽章、月はそっと顔を隠す
◇◇◇
八月中旬。北海道はもう夏休みが終わり、今日から新学期。
一学期の終業式に、夏休みなんか来なくていいのにと思った気がするけど、今は終わってしまって寂しいというワガママな気持ち。
この夏休みはアコール三昧。
夏期講習が終了して暇になったラスト四日間は、オープンから夕方まで入り浸り、奏と一緒に過ごせて嬉しかった。
会話の相手は、マスターや音楽仲間の常連客が多かったけれど……。
教室のドアを開けると、久しぶりのクラスメイト達が賑やかに盛り上がっていた。
あちこちに小グループができ、夏休みの思い出を聞かせているのだろうか。
宿題を必死に書き写している男子も数名いた。
梨奈はまだ来ていないので、私は真っすぐ自席に向かい、鞄を下ろして着席する。
奏もまだ来ていない。
昨日もアコールで会っていても、顔が見たくて早く来ないかなと思ってしまう。
すると「綾」と呼ばれて頭にポンと手が乗った。
横を見ると、真っ黒に日焼けした宏哉で、その笑顔はいつもと変わらないのに少しだけ印象が違う気が……。
間違い探しをしている気分で宏哉を見上げ、髪が伸びたことに気づく。
そっか。野球部を引退したから、もう七分刈りじゃなくていいんだ。
ツンツンと伸びている髪の毛に視線を止めていたら、宏哉がなぜか照れた。
「そんなに見るなよ。恥ずいじゃん。
あ、髪伸びたから惚れたとか?」