奏 〜Fantasia for piano〜
奏が着席すると本鈴が鳴り、すぐに担任の先生が入ってきた。
先生の話を聞きながら、奏の背中を見つめ、心に呟く。
おはようって、言いそびれちゃった……。
学校だと、話しかけるタイミングが取りにくいよね……。
ホームルームと始業式がすんだら、今日からもう普通の授業が始まる。
英語の授業は、いつも五分間の単語の小テストから。
テスト用紙が前から後ろへ回されて、奏と私の手が触れた。
ドキッとしたのは、きっと私だけ。
目を合わせず、横顔をチラリと見せただけの奏は、私に無関心。
そっけない……。
夏休みの間、アコールでピアノを何度も弾いた。
ピアノを弾けばマスターがカフェラテ代をタダにしてくれて、軽食やお菓子までサービスしてくれたから、お財布的には助かった。
あまりうまくない私の演奏を褒めて、感想をたくさん言ってくれたりもした。
でも奏はいつも「よかった」とひと言だけ。
それもマスターに無理やり言わされている感じだし、そっけなくて、私との距離を縮めるのが嫌なのかなと思ってしまう。