奏 〜Fantasia for piano〜
もう少し私に関心を向けてくれないかと考え、今朝の落ち込む宏哉の顔と、優しくしてあげなよという梨奈の注意を思い出した。
宏哉にとっての私は、私にとっての奏ということなのか……。
変に優しくして期待を持たせる方が可哀想だという自分の言葉が、跳ね返ってくる思いがした。
宏哉みたいに落ち込みそうになる気持ちを、立て直そうとする。
テスト用紙に『to encourage』と解答を書き込みながら、その訳通り、自分を励ました。
宏哉は宏哉、私は私。
卒業して離れてしまう前に、奏と仲良くなりたいから頑張ろう。
そのためには、もっと話せるようにならないと。
奏と私の共通の話題はと考えたら、やっぱりピアノに行き着いてしまう。
夏休みはアコールで散々ピアノを弾いたことだし、もうピアノの話題を振っても怒らないよね?
怪我のことに触れたら、嫌がるかな……。
でも気になっていることがある。
奏はテスト用紙にサラサラと走らせるシャープペンを右手で持っている。
カフェラテに絵を描いてくれるのも右手。
荷物も右手に持っていたりするし、日常生活に不自由があるように見えないのに、奏はピアノを弾かない。