奏 〜Fantasia for piano〜
白い世界の扉の中で、奏のお母さんはこう言っていた。
『全く動かなかった薬指も、三度目の手術のおかげで少しは動くようになったじゃない』
あれから数年経った今、指の機能はどこまで回復しているのか。
奏が思うように弾けないというだけで、弾いてみたら私よりは上手だったりして。
テスト中なのに、疑問が膨らみウズウズしてしまった。
聞いてみようかな。
前と違って、今なら答えてくれそうな気もするし……。
やっと昼休み。
久しぶりの授業は長く感じてしまう。
いや、長いと感じるのは、早く奏に疑問をぶつけてみたいと思っていたせいか。
まずは梨奈の席に行き、早口で事情を説明した。
「どうしても奏に聞きたいことがあって、お昼に誘ってみる。今日は梨奈と一緒に食べれなくてごめんね」
「私は別にいいよ。吹奏楽の友達のとこ行けばいいし。でも大丈夫?」
大丈夫?とは、断られるんじゃないかという意味だろう。
それも覚悟の上。
失敗を恐れていたら前に進めないままタイムオーバーになってしまうから、今頑張らないと。