奏 〜Fantasia for piano〜
あいつって誰だろうと思ったら、意中の相手を呼び出す彼女の声に驚かされた。
「高島宏哉先輩、お願いします!」
「あ……」と呟き、奏を見ると、言った通りでしょ?と言いたげな視線を返された。
私に脈がないから、この機に彼女に乗り換えて……なんてことは起きそうにない。
宏哉は真っすぐで、バカにできないほどに一途な奴だから。
それまで少なからずワクワクしていた気持ちが急にしぼみ、一年生マネージャーに申し訳ない気持になる。
薄暗くてどこにいるのか分からなかった宏哉が、集団の中に立ち上がる姿が見えた。
指笛が鳴らされ、冷やかしの声が飛ぶ。
困った顔して輪の中の彼女の正面に進み出た宏哉は、なぜか野球のユニフォームを着ていた。
野球部でなにか催しでもやっていたのかな?
全然知らなかったけど。
背番号は一番。
強豪校じゃなくても、一応エースで四番だから、宏哉は結構モテる。
それでも高校生活で彼女を作ることはなく、それも私のせいかもしれない。