奏 〜Fantasia for piano〜
「宏哉先輩が、ずっと好きでした。
お願いします。私と付き合って下さい!」
マイクを通した真剣な告白の声が、校庭に響く。
今だけは観衆も静かに見守っていて、ひそひそ声さえ聞こえない。
静けさの中で宏哉は「ごめんな」と小さな声で謝り、「これ、もらって」と、被っていた野球帽を彼女に被せた。
歓声待ちをしていた周囲から「あ〜」と残念そうな声がこぼれ落ち、キャンプファイアーに照らされて、彼女の涙がキラリと光った。
やっぱり、そうなるよね……。
結果は分かっていたけど、落ち込みそうになる。
彼女の涙に同情し、なんで断るのよと、悪くないのに宏哉を責めたくなってしまう。
すると奏がローテンションで、こんなことを言い出した。
「次は綾の番じゃない?
人のことより、自分の心配した方がいいよ」
私の番って、なに?
私にはみんなの前で、奏に告白する勇気はないよ……。
奏に向けた視線は、またすぐに前方に戻された。
一年生女子がその他大勢の群れの中に戻って行った後、今度は宏哉が私の名前を大声で呼んだからだ。
「三年五組、斉藤綾!」