奏 〜Fantasia for piano〜
え……ここで告白する気なの?
それは勘弁してもらいたいんだけど……。
宏哉に『付き合って』と言われたことは、今までに何度もあった。
すぐには数えられないほどの回数になっているのに、今さら告白イベントを使う必要はないでしょう。
もしかして、さっきの一年生女子の健気さが、宏哉に火をつけてしまったのだろうか?
俺も、もう一度当たって砕けるぞというような。
薄暗くて観衆の顔なんて見えないはずなのに、宏哉の視線は真っすぐに私に向いている。
後夜祭に参加せずに帰ったから……という言い訳は使えそうにない。
司会の人に「斉藤綾さん早く出てきて下さい。逃げるのはルール違反ですよー」と言われてしまい、私は仕方なく立ち上がった。
冷やかしをあちこちから浴びせられ、恥ずかしさに真っ赤になる。
奏をチラリと見ても視線は合わず、声をかけてもくれない。
『行くな』と言ってくれないよね……。
大丈夫。 分かってるから、そこは傷つかないよ。
人の間を縫うようにして前に進み、輪の中心に出る。
キャンプファイアーの近くは結構熱く、火の粉がかかりそう。
宏哉の正面に立つと、彼の頬に赤みが刺す。
いつも通りの真っすぐな目で私を見つめ、宏哉は告白してくれた。