奏 〜Fantasia for piano〜
「うん、宏哉なら合格できる。頑張って」
心から応援したい気持ちでそう言うと、宏哉ははにかむように笑った。
「綾、ありがとう。綾を好きになったおかげで、野球以外でも学校が楽しかった。すごい満足してる。
綾も後悔しないように頑張れ。俺としては、相手があいつっていうのは、ムカつくけど」
私の気持ち、バレてたんだ……。
考えてみれば、宏哉並みにあからさまな行動を取ったこともあるし、仕方ないか。
でも私が奏に向けているのは、ただの恋心じゃないんだけどな……。
私は奏が好きだと、最近自覚した。
五歳のときからずっと好きだったのだろう。
それは強烈な恋心ではなく、もっと静かで緩やかな、月の光みたいな想い。
みんなのように好きだから付き合いたいと思うんじゃなくて、恩返しをしたいというか、奏のためになにかしてあげたいという気持ちの方が強い。
もちろん、両想いになれたら、それはそれで嬉しいけど、迷惑に思われてそうだから、叶いそうにないし……。