奏 〜Fantasia for piano〜

宏哉の応援の言葉に「うーん」と微妙な返事をして目を逸らした。

すると舌打ちされ、その後には「仕方ねーな。いい物やるから、目を閉じて」と言われた。


いい物とはなんだろう?と思いつつ、言われた通りに目を閉じる。

なぜか周囲から「キャ〜」と黄色い声が上がり、「まだ目を開けんなよ」という宏哉の声が、数センチの至近距離から聞こえた。


「えっ……⁉︎」


驚いて目を開け、さらに驚く。

キスされそうな位置に、宏哉の顔があったから。


いい物って、キスなの⁉︎

全然、嬉しくないんだけど‼︎


「やめっーー」


やめてと全てを言えなかったのは、突然誰かが私の肩に手をかけ、後ろに強く引いたから。

驚きの中、傾いた体が、真後ろに立つ誰かの胸に抱き止められた。


「奏……」


周囲が興奮して盛り上がっていても、それを恥ずかしがる余裕がなかった。

私、今、奏に抱きしめられてる……。

宏哉のキスを阻止しようとして、奏は駆けつけたということ?

その意味は、もしかして……。


< 159 / 264 >

この作品をシェア

pagetop