奏 〜Fantasia for piano〜
祝福や冷やかしのことばを投げる生徒達の間を掻き分け、群れから脱出した後は校舎の方へ。
コンクリートの壁沿いを歩き、角をひとつ曲がると、キャンプファイアーの明かりも見えなくなり、次の告白挑戦者に盛り上がる歓声も届きにくくなる。
やっと足を止めた奏は、私の手を離し、壁に背を預けて深い溜息をついた。
「えっと……ごめんね」
謝ったのは、宏哉と私の恋愛沙汰に巻き込んだことについて。
でも違う意味に取られ、「それって、俺と付き合えないってこと?」と言われてしまう。
「違うよ! 面倒事に巻き込んでごめんという意味で、私は奏が好きだから……あっ」
うっかり想いを告げてしまい、顔が熱くなる。
奏はクスリと笑って私を見てから、視線を空に移した。
釣られて見上げると、紺碧の夜空に浮かぶ黄色い月が、健気な淡い光を地上に届けてくれている。
「後数日したら、満月になりそうだね」
「うん……」
満月と言われると、いつも奏との出会いのシーンを思い出す。
ピアノの音に導かれて迷いの森を抜けると、大きな満月が幼い私を照らしてくれた。
美しい音色の漏れる六角形の小さな家。
その扉を開けたら、奏がピアノを弾いていた。
天窓から射し込む、月明かりに照らされて……。