奏 〜Fantasia for piano〜
先輩というのは、うちの高校を卒業した吹奏楽部のOB、OGのこと。
吹奏楽部の繋がりは広く強いようで、在学年度が被らない、ずっと年上の先輩とも交流があるみたい。
定期演奏会に来てもらったり、逆に先輩の大学の演奏会を聴きに行ったり、この前は『市民オーケストラに入ってる春香先輩がね』と、楽しそうに話してくれた。
私はずっとピアノを習っているから、部活に入らなかった。
ピアノは基本ひとりの活動で、吹奏楽は仲間がいっぱい。
楽しそうな梨奈を見ると、正直羨ましいと感じる。
そんな笑顔で、先輩とどんなメールのやり取りをしているのか……と思って見ていたら、梨奈が突然「綾、お願いがあるの!」と身を乗り出してきたので肩をビクつかせた。
「わっ、びっくりした。
お願いって、どんな?」
「文化の日に音楽祭があるんだけど、それにーー」
興奮気味の梨奈の話しは、こうだった。
半月ほど先の十一月三日、文化の日に、芸術の森の野外フォーラムで音楽祭が開かれる。
ピアノやバイオリン、世界的に有名な演奏家が毎年ひとりは招かれるという、結構大規模なイベントで、今年は梨奈の先輩も市民オーケストラの一員として参加するそうだ。