奏 〜Fantasia for piano〜
秋の音楽祭で世界的なバイオリニストのロズベルグに出会い、ウィーンの由緒ある大きな音楽事務所で働けることになった奏。
音楽事務所に『卒業してからすぐおいで』と言われ、今日の昼過ぎの飛行機でこの街を発つ。
卒業式は途中まで。
最後まで出席できずに、旅立たなくてはならない。
門出を祝福したいから、寂しさを表に出さないようにしてきた。
笑顔で『よかったね、頑張ってね』と言ってあげたい。
涙は禁止だと、自分に言い聞かせている。
音楽祭の後、時間を惜しむように、奏と想い出をたくさん作った。
クリスマスにはふたりでオーケストラを聴きに行き、大ホールでの素晴らしい演奏を楽しんだ。
モーツァルトのピアノ協奏曲『エルヴィラ・マディガン』は、素敵だったな……。
冬休みもアコールに通い、働く奏の傍で受験勉強。
勉強が終われば奏がピアノを弾いてくれて、マスターや常連客も加わり、いつもミニ演奏会のようになった。
札幌雪まつりを見に行って、そこから足を伸ばして夜には小樽運河へ。
運河沿いの道をキャンドルが優しく照らしていて、ロマンチックな雪あかりの路を、奏と手を繋いで歩いた。
やり残したことはないはず。
冬を楽しんで、受験も無事に終わり、第一志望の保育科のある短大から合格通知も届いた。