奏 〜Fantasia for piano〜

想い出がいっぱいで、それぞれの未来へ繋がる光も見えている。

悪いことはひとつもないよ。

だから大丈夫。

笑顔で奏と離れられる……。


早く学校に行こうとしている理由には、奏と話し合うためでもある。

奏の歩む道は、私よりもずっと不確かで険しい道。

成功したいなら、音楽以外のことに心を砕いている暇はないと思う。

私達は何千キロも距離が離れ、次にいつ会えるのかも分からないのに、曖昧な関係を続けて奏に負担をかけたくない。

私と付き合いを続けたせいで音楽に集中できず、その結果失敗してしまったら、お互いに後悔することになるだろうし。


だから私から言おうと思う。

別れようって……。



七時ぴったりに「行ってきます」と家を出た。

今の気温はたぶん氷点下。

コートを着ていても、冷気が肌を刺すようだ。


薄曇りの空から雪がチラチラと舞い降りる。

白い息を吐き、玄関ポーチのステップを下りて……驚いた。

奏が電柱の陰に立っている。

頭と肩に薄っすら雪が積もり、寒そうだ。


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