奏 〜Fantasia for piano〜
正面玄関を施錠して、空を仰ぐ。
紺碧の空には、ポッカリと大きな満月が浮かんでいた。
穏やかな月の光に照らされて、今頃奏はどうしているだろうと考える。
別れの日から六年、私達は二十四歳の夏を迎えている。
幼稚園の先生になるという、私の夢は叶えたよ。
奏はまだ夢を追いかけている途中?
私と違って険しい道のりだから、成功を掴むまで、何年かかることか……。
心に隙間風が吹き抜ける。
今日は格別に寂しく思うのは、爽くんの名前を呼びすぎてしまったからだと思う。
漢字は違うけど、同じ読みの名前。
『爽くん』と呼ぶたびに、こころがチクリと痛むのは仕方ないことだった。
月を見れば見るほど感傷的になりそうなので、足元に視線を向けて歩き出し、駐車場の自分の軽自動車に乗り込んだ。
なんだか、お腹が空かないな。
でも食べないと夏バテしそうだし、コンビニに寄ってサンドイッチでも買って帰ろうか……。
ひとり暮らしのアパートへの道から逸れて、コンビニのある道へと右折する。