奏 〜Fantasia for piano〜

幸運なことに弟子にしてもらえて、そこから奏は飛躍した。

世界中を飛び回るマクスウェルの演奏旅行に同伴すること、およそ四年。

技術的にもその音楽性にも、巨匠を唸らせるほどに成長した奏は、先月のイギリスでの公演で、ピアノを弾く機会を与えられたらしい。


その話に驚いて涙は引っ込み、体を離して顔を上げると、思わず言ってしまった。


「デビューしちゃったの⁉︎
私、招待されてないのに!」


すると奏は苦笑いして、言葉を付け足す。


「デビューじゃないよ。あれはマクスウェル先生の舞台であって、俺の舞台じゃない。
アンコール用の曲で、先生とデュオをやらせてもらっただけだよ」

「そ、そっか」

「本当のデビューは、これから」


奏はズボンの後ろポケットに手を入れて、紙状のなにかを取り出し、私の手の平に乗せた。

チケットのようだけど、さすがに月明かりだけでは暗くて文字が読めない。


「これは?」

「俺の本当のデビューコンサートのチケット。
事務所に無理言って、キサラでやらせてもらうことになった」


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