奏 〜Fantasia for piano〜
キサラとは、この街で一番大きく新しいコンサートホール。
オペラやオーケストラの公演も、よく催されている。
それでも地方都市には変わりないし、東京でやる方がずっと集客率が上がるはず。
いや、東京より、クラシックが一般庶民にも広く浸透しているヨーロッパでやる方が、知名度も上がっていいのでは……。
そんな心配が顔に出ていたのか、奏に言われた。
「デビューコンサートに綾を招待するって、五歳の夏に約束したよね?
あの約束を叶えることが、俺の夢のひとつでもあるんだよ。
大丈夫。ここから世界に羽ばたくから。弾ける曲は十分にある。自信もある。オーケストラとコンチェルトもやりたい。
いつか、マクスウェル先生みたいになってやる」
奏の茶色の瞳が輝いていた。
強気な言葉が嬉しくて、止まったばかりの涙がまた溢れた。
奏の夢はどんどん膨らんでいる。
それを追い求める道は、これからもずっと続いていくんだね……。