奏 〜Fantasia for piano〜

奏の長い指が私の涙をすくい、「綾は?」と聞かれる。

私の夢はどうなったのかという質問だろう。

少々お尻をはみ出しながら、ピアノの椅子に並んで座り、ゆっくりと私の六年間を語る。

短大を出た後、市内の幼稚園の先生になり、毎日忙しくも楽しい毎日を送っていることを。


「綾らしくて、素敵だね」と褒められ、嬉しくなった私は、今日の爽くんとのエピソードをおまけで話した。


「それでね、その紙芝居に歌をつけたんだ。
爽くんとっても嬉しそうで、『綾先生、大好き』って言われちゃったよ。
その後、お迎えに来たお父さんとーー」


それまで笑顔で聞いてくれていた奏が、なぜか急に険しい顔をする。

話の途中で「どうしたの?」と心配したら、「そのお父さんって、綾のタイプ?」と不思議な質問を返された。


「子供思いの素敵なお父さんだと思うけど、タイプって男性としてってこと?
保護者をそんな目で見たことないから、分かんない」

「それならいいけど、まずい気がして。
その子供と父親が協力して、綾を手に入れようとしている気が……」

「へ?」


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