奏 〜Fantasia for piano〜
もしかして、五歳児にヤキモチ?
お父さんのことまで……と思って、そうかと気づく。
奏がまずいと言った意味がやっと分かった。
たぶん、お迎えに来たのがお母さんじゃなくお父さんと言ったせいで、勘違いさせたんだ。
シングルファーザーのお父さんが、私を爽くんのお母さんにしようと考えて、親子で企んでいるんじゃないかって。
その勘違いに吹き出して、笑ってしまった。
「あのね、爽くんのお母さんは入院中でーー」
切迫早産で入院中のお母さんの代わりに、お父さんが早めに仕事を切り上げて迎えに来ていることや、そのために爽くんは今寂しくて、私に甘えていることを説明した。
すると奏がホッと息を吐き出すから、またおかしくて、なかなか笑いが収まらない。
「綾の話し方が悪いんだよ。
もしかして、戻ってくるのが遅すぎたのかと、焦ったじゃないか」
クスクスと笑い続ける私にムッとして文句を言った後、奏は胸ポケットからなにかを取り出した。
デビューコンサートのチケット以外に、まだプレゼントがあるみたい。
「手を出して」と言われ、お土産だろうかと右手を出したら、その手を無視され左手を取られた。