奏 〜Fantasia for piano〜
奏の長く美しく、男らしい指が、私の左手の薬指に指輪を通した。
月の光に輝くダイヤモンドの輝きに、盛大に驚かされて言葉をなくした。
これって……。
奏がピアノの椅子から下りて、私の足元にひざまずき、左手の甲にキスをする。
「俺と結婚して下さい。
この街でデビューコンサートを遂げた後は、世界中を飛び回ることになる。
胸が高鳴る楽しい旅を続けても、疲れを癒してくれる確かな帰る場所が欲しい。
綾、俺の帰る場所になって」
もう……びっくりさせられたり、喜ばされたり、感動させられたり、笑わせられたり、忙しいよ。
この分だと、一生分の涙を、今流しきってしまいそう……。
思いがけないプロポーズに感極まって、涙にむせぶ。
言葉にならなくて首を縦に振り、何度も何度も頷いた。
これからは、いつ帰ってくるという連絡をもらって待つことができるんだ。
偶然の再会を待っていた六年間とは違う安心感。
帰ってきたらこうして触れ合い、話しをして見つめ合って、私のためだけにピアノも弾いてもらえる。
これからは、そんな素晴らしい毎日が……。