奏 〜Fantasia for piano〜

私は背中を押され、部屋から出される。

扉は閉められ、幼いふたりの姿が消えてしまった。

もう少し見ていたかったのに……いや、聴きたかったのに、奏のピアノを……。


残念に思うこの気持ちは汲んでもらえず、管理人は扉の横の真っ白な壁に、開いた状態の分厚い本をかざした。

すると不思議なことに、壁に映像が映し出される。

まるでホームシアターの映写機のように。


無声映画の主人公はどうやら五歳の私で、おばあちゃんの家の電話で、お父さんと話をしているようだった。

受話器を置いた私は、畳に崩れ落ちて大泣きしていて……。


あ、この状況、はっきりと覚えてる。

妹が生まれたという知らせをもらい、やっと帰れると喜んだのに、まだしばらく迎えに行けないと言われて、ショックを受けたんだ。

悲しみのあまりに、私はいらない子で、両親に捨てられたに違いないと思い込んで。


そのときの感情を心から切り離して、この世界の扉に閉じ込めていたということ?

全く自覚はないけれど……。


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