奏 〜Fantasia for piano〜
奏に救われたという想いは、ずっと心の中にあった。
迷子になった私を、ピアノの音であの六角形の部屋に導いてくれたから。
それがなかったらきっと、おばあちゃんを慌てさせ、田舎町を騒がす大騒動になっていたことだろう。
しかし、"救われた"ことは、それだけじゃなかったみたい。
この世界に閉じ込めた心の一部を、扉から出してくれたのは奏なんだ。
奏のピアノと、一緒に過ごす楽しい時間が、私の心を明るく照らしてくれて、そのお陰で扉から出ようという気持ちになれたんだ。
奏に救われた。
だから、今度は私が助けたい……。
自分のことに驚いた後は、すぐに奏を心配した。
ここに奏の扉があるということは、心を切り離したいほどのなにかがあったということだ。
それは一体、なに?
ピアノを辞めてしまっことと、どんな関係があるの?
五歳のあの夏の想い出が、切り離されたというのも分からない。
私にとってはいい印象しかない、温かくて大切な想い出なのに……。