奏 〜Fantasia for piano〜

梨奈が唐揚げを頬張りながら、「もっと話しかけなよ」とハッパをかけてくる。

そうしたいのは山々だが、チャンスが少ない。


「すぐにいなくなっちゃうんだもん。
今だって、どこか行っちゃったし」

「あ〜、一部の女子が一緒に食べようって、しつこかったせいかもね」


転校してきて三日間は、一緒にお昼をと、女子が群がっていた。

そして四日目から、奏は教室でお昼を食べなくなった。


嫌だったんだろうね。

私が誘ってもきっと、同じように迷惑がられてしまいそう……。


数学で助けられ、喜んでいた気持ちが、分かりやすく落ちてしまった。

箸が止まった私を見て、梨奈は「ごめん」と苦笑い。


「香月くんは、ひとりが好きなタイプかもね。
話しかけない方が、あっちのためなのかな……。
でも、このままだと、半年後に卒業してサヨナラだよ」


梨奈の言う通り。

私には半年しか時間がないのだ。

今の奏のことを理解できないままにサヨナラなんて、そんなの嫌だから、もっと頑張って話しかけないと。

そんな私の気持ちは、奏にとって迷惑なのかな……。


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