奏 〜Fantasia for piano〜
梨奈に話すと、気持ちの整理ができるから助かる。
そんな貴重な相談タイムに、元気いっぱい割り込んできたのは、宏哉だった。
私達のお弁当の横にスポーツドリンクのペットボトルを置き、窓際の棚に背を預け、焼きそばパンをかじりながら話しかけてくる。
「綾の弁当、うまそー。
自分で作ってんだろ? すげーな!」
「違うよ。お母さんが作ってくれてる。
私は用意してあるおかずを詰めるだけ」
「あ、そうなんだ。えーと……でもさ、詰め方が上手い! なんか、美的センスあるよな」
梨奈が「分かりやす……」と呟いて、笑っていた。
無理やり褒めてくれた宏哉に、私は複雑な気持ちにさせられる。
宏哉がいい奴だということは、よく分かっているのに、その気持ちに応えてあげられない。
理屈じゃなく、宏哉に胸をときめかせることはできないから、ごめんね……。
申し訳ない気持ちに加え、宏哉が交ざってきたことで、梨奈に相談ができなくなったことを残念に思っていた。