奏 〜Fantasia for piano〜

それからは三人で、宏哉の迫る夏の高校野球、地区大会の話や受験の話をして、お弁当を食べ終えた。


午後の授業開始五分前の予鈴を聞いて、梨奈が宏哉に言う。


「もう戻ったら?」

「え〜、俺、邪魔? 綾もそう思ってる?」


思わず頷くと、宏哉の顔がムンクの叫びのようになって笑った。

すると日焼けした腕が伸びてきて、頬を摘まれ、横に引っ張られる。


「こら、笑ってんのはこの口か!」

「いひゃい、ひゃめれよー」

「なに言ってんのか、分かんね」


嬉しそうな顔してやめてくれない宏哉と、その手を掴んで引き剥がそうと頑張る私。

梨奈は机に頬杖ついて、「宏哉も綾も、なんか大変だね……」と呟いていた。


私が椅子を借りていた女子が戻ってきたのを切っ掛けに、宏哉はやっとじゃれつくのをやめてくれた。

授業開始の三分前で、私も宏哉も自分の席に戻る。

すると、いつの間にか奏が戻っていることに気づいた。

自分の席に座り、スマホから伸びるイヤホンで、なにかを聴いているみたい。

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